福島県双葉郡葛尾村に、アーティストやクリエイターが滞在し、リサーチや制作を行うアーティスト・イン・レジデンスのプログラム「Katsurao AIR」。2024年7月25日(木)-28日(日)の4日間、葛尾村復興交流館あぜりあを中心とした村内各地で、活動報告会が開催されました。
ファッションショーで蘇る伝統
鮫島 弓起雄《野行宝財踊りコレクション》
滞在アーティスト 鮫島 弓起雄(さめしま ゆみきお)さんは、葛尾村の北東部の集落「野行(のゆき)地区」に伝わる伝統芸能「野行の宝財(ほうさい)踊り」の衣装に焦点を当て、ファッションショー《野行宝財踊りコレクション》を開催しました。
野行地区は、村内の中でも山深い集落のひとつ。原子力災害による避難指示が長期化したことから、この宝財踊りに関しても舞い手が減少するなど、伝統の継承が課題となっています。宝財踊り保存会の会長 半澤 富二雄さんから、「これまでの宝財踊りもその時々のアレンジが加わっていて、唯一の正解はない。伝統を繋いでいけるよう、自由に楽しんでほしい」というお話をうかがった鮫島さんは、宝財踊りの衣装を用いたファッションショーを構想。モデルとして村内外の方々が集い、10通りの役柄の衣装にそれぞれ身をまとってランウェイを歩きました。当日は保存会のみなさまや、村外からこれを目当てにご来場いただいた方で大盛況。モデルのみなさまの、いつもとは少しちがう自分になれたような表情が印象的でした。
4日間を通しての展示では、鮫島さん自身が宝財踊りの衣装をまとって踊った姿が、アクリルスタンドやAR(拡張現実)で表現されました。時間や空間を超えて記憶を繋ぐことが、ユニークな形で実現された作品となりました。
あなたの身体は何からできている?
町田紗記《この場所で生きる》
絵描きの町田紗記さんは、作品《この場所で生きる》を制作しました。かねてから動物と植物と人の関係性を見つめ、人が自然として存在する世界をテーマに活動を続けている町田さん。モリアオガエルの卵塊や闇夜に光る蛍に心を躍らせたり、ニホンカモシカに遭遇したり……といった滞在中の実体験に加えて、村で暮らす方々の語りの中にも、人と自然との切っても切れない関係を実感したようです。
普段は四国・愛媛県松山市を拠点として活動している町田さんにとって、山深い本州の中山間地域の環境は特別なものでした。《この場所で生きる》とともに、活動報告会では地域でみつけたさまざまな採集物を展示。かつて海沿いの浪江からトロッコで運ばれてきたという鉄鉱石にも、この地域の人々と自然の関係性の一部が垣間見えます。
滞在期間が終わっても手に取っていただける作品を届けてくださった町田さん。《この場所で生きる》は、葛尾村復興交流館あぜりあの図書閲覧コーナーにてご覧いただけます。ぜひ葛尾村でお手に取ってみてください。
土地に生き続ける音風景(サウンドスケープ)
橋本次郎《Katsurao Song / 村のうた》
兵庫県神戸市を拠点に活動を続けている、レーベル「ZEIT」主宰の音楽家/サウンド・アーティスト、橋本次郎さん。葛尾村の文化や歴史、風土を背景とした「象徴的な音」をテーマにフィールドレコーディング(野外録音)を行い、そこで聴こえるサウンドスケープ(音風景)をモチーフとした作品《Katsurao Song / 村のうた》を制作しました。
活動報告会の期間中は、展示会場として使用した葛尾中学校の体育館が、葛尾村の美しい風景を映した映像とともに、葛尾村の音を体感していただける空間になりました。「地域のみなさまの、土地への熱量や愛を感じる語りに、心を動かされた」という橋本さん。「この土地で生まれた作品が、この土地で生き続けるような、そんな作品になることを望んでいます」と、今後の展開にも目が離せません。
ロングタームアーティスト 永井文仁 増田拓史
中間発表&トークイベント
今春から11月までの間、葛尾村に通いながら制作を続けるロングタームアーティストの永井文仁さん、増田拓史さん。7月末の報告会では、中間報告として、今年度行うプロジェクトの導入部分をご紹介いただきました。
永井文仁さんは《ひかりをすくう》と題して、トラックの荷台にとある仕掛けをしつらえました。これからどんな取り組みがはじまるのでしょうか?
増田拓史さんは、お米づくりなど、食べるものの生産に関わる人々を追いかけたドキュメンタリー映像の中間報告版トレーラーを、葛尾村復興交流館あぜりあの「蔵」にて上映しました。あぜりあができる前からこの地にあった蔵の中という環境は、この地で生きてきた人々の暮らしを、よりいっそう実感する鑑賞体験をもたらしてくれました。
7月27日(土)にはアーティストトークを実施。お互いのプロジェクトについてや、葛尾村の人々と交流して思うことなどについて存分に語っていただきました。永井さん・増田さんは引き続き活動を続け、11月21日(木)~24日(日)に、村内にて最終報告がある予定です。お楽しみに!
改めまして、アーティストのリサーチや制作をサポートいただいている地域のみなさま、その他さまざまなサポートをいただいているみなさまに心より御礼申し上げます。
これからも多様なアーティストが葛尾村に短期移住者として滞在し、それぞれの視点からこの地域が再発見されていきます。今後の Katsurao Collective の活動にもご期待ください!