Katsurao AIRにて、2022年に福島県葛尾村にて滞在リサーチや活動を行ったアーティストたちの活動と作品を紹介いたします。
都内にて、福島の12年後の今を、美術作品を通してご覧いただけましたら幸いです。
「遠き山に日は落ちる」
【会期】2023年8月5日(土)〜8月17日(木)
【時間】11:00〜20:00 ※最終日は14:00まで
【会場】渋谷ヒカリエ 8階、8/ CUBE 1,2,3
【参加アーティスト】赤坂有芽、石川洋樹、太田祐司、尾角典子、山口諒、山田悠
私たちが暮らすこの地球上では、天災、人災、経済の変化などに翻弄され、住み慣れた土地を離れ、帰る土地を失う人々が今なお増えつつある。そしてその事態は、いつ自身の境遇に成り代わるかについても、私たちは朧ながら頭の片隅にありながら、まだそのようなことはないだろうと日々を暮らしている。
ミッシェル・セール著『五感 混合体の哲学』に次のような一文がある。”慣れ親しんだ周囲の風景や昔からの集団や職業〜(中略)〜歌うようなアクセントの方言、心地よい響きの固有名詞、慣習、習慣、そうしたもののなかで存在は安定している。おお、自分であることの無言の歓喜。”この一文は、帰りたいと願う故郷や特定の場がある人々にとっては、少なからず共感する情感であろう。慣れ親しんだ土地を離れる、離れなければならないこととは、一体どのような影響を人や社会にもたらすのだろうか。
本企画に参加する6名のアーティストは、福島県双葉郡葛尾村にて2022年より始動したKatsurao AIR(カツラオエアー)アーティスト・イン・レジデンスの事業にて約30日間の活動をおこなった。アーティスト・イン・レジデンス(以下AIR)とは芸術家が一定期間普段とは異なる場所に滞在し、芸術活動やリサーチを行うこと、またその支援を行うことを指す。
アーティストらもまた、日ごろ住み慣れた土地から葛尾村へと移動し活動をおこなった。彼らが見聞きした情報と、そこで考え現れた作品が、今回、東京へ移動し展示されることにより、実体のあるものが移動することでしか得られない、メディアには載ることのないような情報を含めた事実や情景を伝えることができるのではないだろうか。
それは、通り一遍の関係や思い込みを更新させるような、余地を作り出すことができるのではと考えている。
タイトルの「遠き山に日は落ちる」は、ドヴォルザークの弟子が交響曲第9番『新世界より』を編曲した歌曲「Goin’ Home」から、多くの日本の作曲家が歌詞をつけたものの一つ、「家路」”遠き山に日は落ちて〜”という歌い出しの歌曲から引用した。
遠くに見える山に日が落ちるその先に、住まう人々の顔を私たちは想像することができるのなら、遠くの出来事を日常の延長にあることとして捉えることができたなら、私たちの社会の仕組みの時代に沿った変化や、自身の判断では追うことのできないような出来事への新しい方策を見つけることができるかもしれない。
最後に、本展示を通して未だ福島の特定地域の印象が、2011.3.11より留まったままの情報や思考をゆり動かすような場を提示することができたならと願う。
キュレーター 山口貴子